IPCR No.6 中小企業における人事制度の根幹

近年では大企業を中心に成果主義や業績主義の人事制度が持て囃されています。また、先進的な中小企業でも成果主義や業績主義が導入されつつあります。今回は人事制度の根幹について少し考えてみたいと思います。わが国の人事制度は戦前戦後を通じて年功主義がその根幹を成していました。ところが、高度経済成長期以降、従業員の賃金水準と実際に行っている仕事の価値が釣り合わないという現象が、高年齢の従業員を中心に見られるようになったことから能力主義の人事制度が登場してきました。

年功主義とはいったいどの様な制度でしょうか。戦後の焼け野原から奇跡的な発展を遂げたわが国の経済発展のベースをなす制度でした。食うや食わずの生活から少しでも、徐々にでも良い生活を求めて人々は働き続けました。当時の一般的な処遇の階層は、学歴により形成され、また後には経験による熟練や技能の習得、社内試験等により組織の階層序列と昇格や昇進の基準が形成されました。これらの基準は経営サイドが一方的に制度化したものではなく、働く人々の意思も色濃く反映されています。その結果、年功制度の中には経験、すなわち勤続年数の増加に伴う熟練や高い技能、更には職場経験を通じた突発的な業務の処理能力などその職場でしか形成されない特殊的な能力の形成などが含まれて評価されていました。一方で技術革新は日進月歩で進み、人の熟練を非熟練へと変える力も作用していました。そこで年功、すなわち勤続年数=年齢による熟練や特殊能力の形成が如何に仕事の実績と結びつくか。或いは仕事の難易度と結びつくかによって具体的に処遇を変化させることで、従業員間の秩序を再構築する方向へと進む契機となったのが能力主義の人事制度の登場です。

年功主義と能力主義を整理すると、?@年齢によるライフサイクルの変化に対応して処遇や賃金が上昇する。?A勤続年数が長くなれば仕事をこなす熟練が増し、技能も高まる。更に経験知が増し、色々な状況に対処できる能力が形成される。?B長期的に従業員を雇用することで組織に対する帰属意識は高まり、特定の職務のみならず多様な職務をこなし、仕事の幅が拡大すると共に管理監督業務等の能力開発が可能となる。?C従業員は長期継続した企業での仕事生活を基盤に能力開発および人生設計を行うことができる。?D勤続や年齢と仕事の種類や難易度、実績との関係は、取組む仕事のプロセスと結果から全人格的に評価される。といった内容を含んでいます。一つ一つを見てみると処遇と仕事の関係について大きな問題があるようには思われません。

以上見てきたように年功主義やその発展形としての能力主義に大きな問題や欠陥があるようには思われません。成果主義や業績主義の行き過ぎがこれまでの制度の利点をなくすことのほうが問題を大きくするようにも思われます。これらのことを中小企業の実態に即して考えてみたいと思います。中小企業の従業員で新卒で入社し、定年退職まで当該企業で勤務し続ける従業員はいったいどの程度いるのでしょうか。正確に調査したデータがないので分かりませんが。非常に少ないというのが実感です。中小企業では元々年功主義が全面的に機能していたのではなく、能力や業績が年齢に加味されて処遇されていたのが実態ではないでしょうか。そしてそれを年功制度や能力主義制度と呼んでいただけで、経営者の理念を反映し、且つ人事管理の根幹を成す重要な制度として多少の形式や体裁を整理することで十分有効に活用することができるものと考えられます。業種や業態によっても異なりますが、長期継続して勤務してくれる従業員が中小企業の成長発展にとって如何に大切であり重要であるかについて考えるとき、成果主義や業績主義に偏り過ぎた制度が有効に機能する確立は非常に小さいと考えられます。多くの中小企業において、長期継続勤務者で且つ有能な従業員は企業とともに成長し発展し続け、企業経営の中枢にはなくてはならない存在になっていることを考えると、どの様な制度が長期継続雇用に有効かを真剣に考えなければならないのではないでしょうか。
posted by Intelprise Consulting | インテルプライズレポート