IPCR No.5 雇用形態の変化と中小企業の進路

昨今の景気回復については多くの意見があるようです。大企業は事業基盤の再構築と従業員をリストラすることで業績を回復しましたが、多くの中小企業は景気が回復したという実感をもつことは出来ない状況にあります。必要最低限の従業員で経営活動を行っていることから簡単に従業員数を圧縮することは出来ず、リストラを行うにも技術的な基盤の喪失や熟練喪失などに大きな問題が生じます。とはいうものの中小企業は生き残りをかけて事業活動を革新しなければなりません。ポイントは、総額人件費の圧縮と付加価値の獲得に向けた施策の策定と展開です。

付加価値というのは、以前にもふれた通り、自社で新たに獲得した価値の総称であり、総額人件費とは、企業が雇用する従業員に支払う費用の総額のことです。総額人件費を削減し、且つ企業の技術資源の外部流出を防ぐ方法は、いったいどのようなものでしょうか。中小企業の中には大企業に習い、従来の年功主義や能力主義に代表される人事制度を改め、成果主義、業績主義を中心に据えるところが出てきました。簡単にいえば人を外に出さない代わりに一人あたりの人件費を圧縮するということです。企業の業績が高ければそれなりの人件費を支払う能力がありますが、実際には業績が低迷しており、現行の人件費を出し続ければ、企業の存続が危うくなるという現状において、人件費のバランスをとるのですから、当然人件費は圧縮されるのです。しかし、頑張った者には高い処遇をします。という大儀を持たせたという点でリストラよりはましな制度だと考えられます。要は、経営サイドで戦略的な施策を立案できない、或いは展開できないという状況下で、経営業績は改善しなければならないので、従業員一人一人の能力発揮を期待して業績と処遇をリンクさせようと考えたものなのです。仮に業績が向上しなくても業績連動の処遇により総額人件費はコントロールできるという、短期的視点に立った施策の展開或いは緊急避難的施策なのです。論理的には、貢献と誘因のバランスをとるものであるという考え方もできますが、果たしてこのような施策で中小企業は経営を革新し業績を回復することができるのでしょうか。今回から3回にわたり企業における人事・労務に関するテーマで検討を加えたいと思います。第1回目の今回は雇用形態の変化について、次回は人事制度の根幹について、そして第3回目は協働組織の再構築について考えたいと思います。

総額人件費の圧縮の一つの手段として、雇用形態の変化があります。一般的には正社員、アルバイト、パートなどですが、現在の状況を括りなおすと、正規従業員と非正規従業員に区分することができます。正規従業員とは、正社員で社会保険や労働保険の加入対象者として長期継続して雇用される者を指します。一方、非正規従業員は、パート、アルバイト、更には派遣社員など正規従業員とは差別的な処遇で有期雇用される者を指します。従来は、非正規従業員は、勤務時間や勤務日数で正規従業員とは異なる少ない日数や時間を勤務することから、処遇も日給制や時間給制が適用され、それはそれで自分の時間を有効に活用したいとする主婦層や学生が中心でした。しかし、現在のそれは、正規従業員になりたくてもなれない人々が多く含まれています。企業は正規従業員と能力的には大差の無い非正規従業員を活用することで総額人件費を圧縮する方向で進み、現在では大きな社会問題になっています。正規従業員と非正規従業員の処遇と職務遂行能力の相関を正しく認識することが可能である間は、経営の諸活動を計画的・意図的に展開することが可能となります。ところが一部の企業では、職務遂行能力と処遇の間に逆転現象が起こり、非正規従業員のモチベーションは低下し、組織力は著しく損なわれてしまうという結果を招いている企業も見受けられます。一方正規従業員も少ない正規従業員と多くの非正規従業員の中で正規という身分化が生じ、非正規従業員との対比で職務を遂行する中で、能力開発は低調な状態で推移し、モチベーションの高まらない非正規従業員の職務遂行と合わさって組織の職務遂行総量は徐々に低下していきます。ルーティンワークを着実にこなしていけば良い時期は問題ありませんが、環境の変化に対応し、且つ企業企業との熾烈な競争に勝ち残らなければならない時代には大きな問題を露呈することになります。経営状況の厳しい時期に緊急避難的に実施した雇用形態の多様化と職務遂行の関連を一旦見直し、整理して、従業員の職務遂行能力の諸力の発揮の妨げになるような制度や施策は適宜改善改革を進めて行かなければならないのではないでしょうか。従業員の能力発揮の機会の創出と努力や成果の累積が処遇と結びつくとき、従業員のモチベーションは劇的に改善向上し、企業の成長と発展を支える組織能力になるのではないでしょうか。
posted by Intelprise Consulting | インテルプライズレポート