IPCR No.2 総費用の削減と人事管理制度

企業経営を取り巻く外部の経済・経営環境の低迷が続く現在、環境の変化に適宜適切に対応し、環境適応業たることが求められています。企業経営を良好に維持するためには、2つの課題が同時的に達成される必要があるものと考えられます。一つは、一定の部分市場において付加価値を追求することであり、もう一つは、総費用をコントロールし削減することです。まずは、従来の業務の進め方を全面的に見直すことで無駄や非効率を排除することですが、その場合のキーワードは、当該業務が顧客の獲得・維持あるいは顧客満足につながっているかどうかを考えることです。これらのことは、強力なリーダーシップが発揮されることを前提条件として、人との関わりをある程度排除して再設計することが可能であり、一定の時間とコストをかければ改善・改革することができると考えられます。

ところが、商品やサービスを作り出す前工程(資材調達、購買管理、製造管理等)と後工程(販売管理、営業管理、販路構築等)の一連の流れの中で、特に重要となる資本は「人」であり、この人的資本を有効に活用することが現在の企業経営において非常に高い関心が払われることになります。人件費は管理会計において固定費として認識されます。売上高−変動費=限界利益、限界利益−固定費=利益という算式から、売上高の増加が見込めず、変動比率の低減も期待できない場合の利益獲得手段は、唯一固定費の削減ということになります。この固定費のうち大きな割合を占めるのが人件費です。限界利益に対する人件費(役員報酬+給料手当+雑給+賞与+退職金掛金+法定福利費+その他)の割合を労働分配率といいます。労働分配率の正常な数値は、業種や企業の状況により異なりますが、一般的に45%〜60%程度の間であろうと考えられています。この数値が現在80%を越える状況になっているのです。すなわち、売上高(販売量と販売価格)と限界利益率の減少傾向が限界利益の額を減少させていますが、人件費は高度経済成長期に策定した制度をそのまま使用し、総額人件費が高止まりしているために起こっている現象といえます。

人事制度は1980年代より職能資格制度の導入が盛んに行われ、年功制度からの脱皮を図ろうとしました。職務遂行能力に賃金を連動させ職位との連動を避けるという職能資格制度の目的は、人事の弾力的な運用と能力と賃金の関連性を明確にすることで人事の活性化と総額人権費の縮減でしたが、実質的な運用は年功的になり、総額人権費の縮減に大きな効果はありませんでした。現在では、人件費を変動費化することで、売上高や限界利益の増減に応じて人件費も増減させ、一定の利益を獲得しようとするものへと変化を遂げています。いわゆる、実績主義、業績主義人事制度の導入です。業績給や歩合給を導入することで固定部分の給与水準を下げ、業績に応じて給与が増減する仕組みになっています。このような人事の諸制度は、短期的な企業利益の獲得には効果を発揮するものと考えられますが、中長期的には、企業の核となる人材の育成にはマイナスの影響を及ぼします。長期安定的に雇用や給与が保障されることを前提として企業に対する帰属意識を醸成してきた従来のわが国の人事制度の枠組みを根底から崩すものになるからです。業績・実績主義人事制度の導入は企業の経営理念の変革を伴って初めて可能であり、制度だけの導入は企業の寿命を縮める原因になってしまいます。そのような意味から、安心型の経営を信頼型の経営の変革する強い意思と覚悟が求められる時代になってきたと考えることもできるのではないでしょうか。
posted by Intelprise Consulting | インテルプライズレポート