H19年第1号「中小企業の経営コンサルティング」

特集記事 H19年第1号「中小企業の経営コンサルティング」


□社長としての経営体験の重要性
□経営理論や研究の重要性
□果たして経営コンサルティングは有効か



 
□社長としての経営体験の重要性
中小企業の社長は、どの様な出自なのだろうか。私自身が中小零細企業の社長である。だから社長としての体験 が経営に重要なのは一体何かを考えることがある。私自身が社長になるまでを考えれば話は簡単である。27歳の 時に中小企業診断士の資格を幸運にも取得することができた。すぐに中小企業の経営コンサルティングファーム に転職した。会計事務所系だから、会計事務所の顧客が経営コンサルティングにおいても主要な顧客である。特 に中堅企業が対象であったが、そのような企業でなければニーズも少ないのである。経営戦略の立案や人事諸制 度の構築、事務分析や職務調査、システムの構築、経営計画の策定などありとあらゆる業務の支援を行ってきた。 立場的には経営者と対等であるという認識は存在するが、実態は経営幹部と一緒に諸々の業務をこなしていく実 務支援という状況であった。実際、私が居なくても経営計画や人事の諸制度は構築できるのではあるが、施策立 案や策定の考え方や手法などを提示し、支援しながら一緒に苦労を共にするところに信頼関係は形成され、同時 に一定の役割が認知されるのである。その根本にある考えは、「良い企業になって欲しい」「従業員が幸せにな って欲しい」「ただひたすらに誠実に」といった思いだった。多くの中小企業の経営者や経営幹部は、それぞれ に実務を持っている。営業部長は営業の、財務部長は財務の、総務人事部長は総務人事の、社長はトップ営業や 経営財務等の中核的な業務を統轄している場合が多い。1年に一度、ある程度まとまった時間をとって、会社の ことを幹部と共に考え抜く時間を持つことはとても重要であり、かつ、貴重である。この時に戦略的な中期経営 計画をローリング方式で立案するのである。その後の1年間はこの計画に沿って事業活動を展開し、月次は経営 会議等で修正を行うというスタイルをベースにする。臨機の対応が必要なものはその都度対処することになる。 私は、入社後3年でチーフコンサルタントになり、その後、取締役を経て代表取締役に就任した。それなりに実 務ができたから社長になったのであろう。独立してからも、実務が優先である。中小企業の社長は、多かれ少な かれ、実務の達人なのである。工事会社なら工事の、小売業なら販売や仕入の、料理店なら料理の、製造業なら ものづくりの達人なのである。たまたま、私は経営コンサルティングが仕事だっただけである。実務を行って社 長になることの重要性は、従業員のことがよく分かるというメリットである。自分が経験してきたことで、良い 事は続け、良くない事は改善することができるのである。ところが、仕事についての慣れが生じ、経験したもの が全てであるような錯覚に陥ってしまう場合もある。或いは、新しいものにチャレンジする意欲が薄れ、現状の 中で自己満足と安定を手に入れようとすることに躍起になってしまうこともある。中小企業の多くは労働集約的 な事業が多い。だから初期投資が概して少なく、努力すれば従業員も独立して会社を起業することができる。優 秀な従業員が独立すると困ることもある。やり方が古いからといって今風のやり方で独立する場合もある。自分 のやりたい方向で仕事ができない、或いは自分の企画が承認されないなどの理由から起業する場合もあるだろう。 中小企業の従業員は、大企業の従業員が組織の中で出世競争し、定年まで勤め上げるという考え方とは大きく違 っている。独立して会社を持つことが一定のモチベーションなのである。そして二代目、三代目へとつないでい くことが目標となる場合もある。だから中小企業の社長の経営体験は、その企業にとっては「かけがえのない貴 重な体験であると同時に人生そのもの」なのである。中小企業は生まれ続け、死に続ける存在なのである。その 存在を少しでも長く、確かなものにするために経営を正しく行っていく「知識」「経験」「智恵」が大切なので ある。

□経営理論や研究の重要性
経営コンサルタントという職業に対して敵愾心を燃やす経営者は少なからず存在している。何がそれほどに気に 障るのかは分からない。経営コンサルタント同士でもお互いに相容れないものを持っている場合もある。特に中 小企業診断士について、経営診断や経営指導は理論であり、経営は実務である。だから経営の実態や内容に即し ていないから役に立たないといったものから、絵に描いた餅のようなものであるから役に立たない、といったも のまで様々な批判や否定がある。一方、経営を経験した元社長や元経営幹部などが経営コンサルタントになる場 合もある。そのようなコンサルタントには、経験は特定の経験であり、その経験を他にも活用できるようにする ためには、経験を汎用性のあるものに理論化する必要がある。その理論化がなければ、個別の企業に対応できな い。また、そのような理論化を否定すれば、天に唾するようなものである。更には、そもそも経営者だったのだ から成功していれば何も経営コンサルタントになる必要はない。経営者として成功していない経験は役に立たな い、という意見もある。私は中小企業診断士だから、診断士のかたを持ちたいが、一方で経営者でもあるから実 務家の意見も一理あると思わざるを得ない。しかし、よくよく考えて見れば、いずれの意見も理論である。経営 コンサルティングとは、企業の現状を「時間」と「水準」の二軸で方向付けを行い、日々の経営実践を変化させ ていくことである。「去年とは違う今年を実践する」ことである。経営コンサルタントの仕事は、1に経営に関 する知識やノウハウを提供すること。2に経営者や経営陣が陥る現状維持の壁を一緒につき崩すこと。3に変化 に対する組織的抵抗に大儀を与えること。などである。これら全てのことを「実務の達人」の経営者が1人で行 うことはなかなか困難なことであるし、時間がかかってしまう。そこで中小企業の経営コンサルタントの登場な のである。これら主要な3つの仕事は、「理論」か「実践」か、ということ二者択一ではない。そもそも、人の 活動を考えれば、人は色々な情報を知識として取得、習得し、それを頭や心で考え思考する。そして自分が行う 言動について判断し実行する。頭の中で知識は入力され出力され思考が行われる。実践とは、口や手足を動かす 筋肉の動きである。知識・情報→思考・判断・決断→発言・行動となる。知識を得て、その知識を現実の経営活 動を想定して色々と思考し実践する。その実践した結果を再度、情報や知識として更なる思考、実践が繰り返さ れる。それが人の日常活動である。だから、当然理論も実践も大切なのである。どちらが欠けても全く意味はな いのである。理論がなければやってみるしか方法はない。効率は非常に悪い。しかし、理論があればある程度の 実践方法が想定される。効率が良い。だからよりよい実践にはよりよい理論が必要なのである。時間をかけて試 行錯誤を繰り返す必要がないのである。その試行錯誤は以前にどこかの社長がやったことだから、それを超えて 更に実践するほうが効率的なのである。理論は実践であり、実践は理論でもある。企業の幸福と従業員の幸福は 生産性の向上によてもたらされる。従業員に効率を求めて経営者が効率的な経営的な意思決定を行わないことが あるとすれば、それは経営者として失格なのである。

□果たして経営コンサルティングは有効か
世の中には多くの経営コンサルタントがいる。個人でやっている人もいれば、大企業でやっている人もいる。コ ンサルタントとは、専門的な知識や技能を持つ専門家が、そのことについて指導や助言を行うことである。だか ら色々なコンサルタントが存在する。医療の専門家、金融の専門家、福祉の専門家、財務の専門家、労務の専門 家、税金の専門家、監査の専門家、生産の専門家、技術の専門家などなどである。その意味から経営コンサルタ ントは経営の専門家ということになる。経営は、戦略も管理も財務も人事も営業も販売も仕入も生産も企画も投 資も情報もシステムも全て含んでいる。一つ一つはより深めていかなければならない専門分野として存在するが、 経営はそれらの全ての機能を持ち、相互に関連も複雑である。だから特定の機能でけに精通していてもダメで、 全てをある程度の水準で網羅的に理解と経験を深めていなければならない。昔は大学に行く人も少なく、その中 で経済学や経営学を学ぶ人も少なかったのだろう。だから経営に関する知識は重要で、希少価値もあっただろう。 しかし、今や全入の時代である。大学を選ばなければ全ての高校生は大学に進学できるのである。経済学や経営 学を学んだ学生が中小企業にも多く存在する。だから学問や経営理論的には米国のMBAの取得など、大学院レ ベルのケーススタディや研究が必要になってきているのかも知れない。学部程度の知識だけではもはや経営コン サルタントとして専門家とは言えず、有効性はほとんどないといってもよいのである。では、国家資格の保有は どうかと考えると、経営に関する全般的なものを要求されるのは、公認会計士と中小企業診断士ということにな るだろうか。中小企業診断士の試験科目を見ると、現在は改正が行われ、以前とは格段に実践に近い試験科目に なっている。だから経営を体系的に実態に近い形で学ぶことができるため有効性は高くなっていると考えられる。 更に、資格試験は適性試験であるとも考えられる、1次試験から2次試験、3次実習へと進むうちには、経営に ついての深い思考が必要であると同時に、そのような時間に耐え、継続するには「楽しい」とか「好き」などと いう感情が必要である。その意味において適性ということも一理あるであろう。次に経験であるが、中小企業の 優秀な従業員が起業する例は非常に多い。中小企業は機能分化が柔軟なため色々な部署で種々のことを学び経験 する機会を得るチャッンスが多い、そこで企業に必要な各機能や相互の関連を経験、理解する。一方、経営コン サルタントはそれを勤務先企業で経験、学習する場合もあるし、色々な企業を支援・指導する経験の中で学び理 解することもある。これらのことを考えると、中小企業とはいえ、経営の専門家として指導や助言、支援を行う ためには、1つに経済学や経営学の基礎知識を持ち、更にケーススタディや研究で経営に関する深い思考を展開 していること。2つに国家資格を取得し、一定の体系的知識と適性を客観的に証明できること。3つに企業での 各機能の実務経験を持ち、かつ管理職、経営中枢の職能を経験していること。が必要なのではないだろうか。こ れらのうちの一つや二つで経営のコンサルタントが成り立つとすれば、それは1億総経営コンサルタントといっ た、当たるも八卦当たらぬも八卦といった状況になるのではないだろうか。いずれの企業に対しても100%の成 果を間違いなくあげることのできる経営コンサルティングは存在しない。いろいろな状況や条件が複雑に作用す るからである。それでもその確率を高めるための論理と実践を不断に行う時間と意志が専門家としての経営コン サルタンとを成長させるのである。最後に、これが経営コンサルティングの有効性には極めて重要なのであるが、 それは経営者の経営コンサルティングに対する言明である。経営コンサルティングは現状を時間と水準の2軸で 方向を定め、そこに行くための手段方法を目的手段体系で施策展開することについて助言や支援を行うことであ る。だから、行く場所が明示されていなければ目的手段体系が曖昧になるのである。経営者の言明とは、経営目 標の明示であると考えても良いだろう。経営目標が時間と水準で定量的に示されていることが決定的に重要なの である。経営目標が明示されていない企業で、人事諸制度や情報システム等を策定することのできる経営コンサ ルタントは天才である。それは、目標がなければ手段は選択できないから、自分で目標を設定することになる。 それは経営コンサルタントの仕事ではなく、社長の仕事である。そのような企業は経営コンサルタントに関係な く良くはならない。また、それを言わない経営コンサルタントも真実ではないのである。
posted by Intelprise Consulting | 特集記事